インターネット放送が普及するために必要な事柄

今後取り組まなければならない問題をいくつか書いてみました。仕事のネタでもあるのであんまり詳しくは書けませんけど。2003年10月に記述。2002年3月に第1版を書いたのですが、さすがに古くなって書き直しました。

総論

そもそもインターネット放送の普及が望ましいと考える理由は、現行の放送システムが国家免許に基づく少数独占(電波資源の有限性からせざるを得ない)に立脚していることが疑問なためである。映像による表現はものすごく面白いものであり、せっかく技術的手段ができたのだからもっと万人に機会が開放されるべきであるし、言論の自由という観点からも自由競争があるべきであると考えている。

以前は放送全てがインターネットに収束すると漠然と想像していたが、向こう20年間で民放局の一つや二つはつぶれたとしても、インターネット放送と既存の放送とが共存しつづけることは間違いないだろう。既存の放送システムは数百万〜数千万人の視聴者を対象とした大規模放送においてシステム・コストの面で優位性がある。オリンピック、ワールドカップや重大ニュース、紅白歌合戦(笑)など視聴率が10%以上取れるような番組は既存の放送向きである。ちなみに有名俳優・女優を使ったドラマであっても年々視聴率は低下しているとのことなので、10%とれる番組はそのうちごく少数になってしまうかも知れない。
逆にインターネット放送が強みを発揮すると考えられるのは、CS放送程度の数千〜数十万同時視聴者の中規模放送、同人コミュニティや結婚式中継などの数人〜数百人程度の小規模放送である。多メディア化が進むにつれて、こういった規模の放送の重要性は今後増していくだろう。

インターネットの商業映像配信は、現時点ではほとんどが中央サーバからのストリーミング形式で配信されている。ところが、このようなストリーミングはサーバ側の設備投資、回線運営費などがかさむため、まだまだコストメリットという意味では改善の余地がある。この点P2P配信が有望と考えられるが、技術的な問題点が残っている。(「ネットワーク技術」を参照)

現在のインターネット放送の大きな弱点は、適した映像コンテンツの形式および儲かるビジネスモデル、よいコンテンツのプロモーション方法が見つかっていないことである。ほとんどのコンテンツは(知人の言葉を借りると)正しいタイミングで正しい形式で正しい配信チャンネルへ流すことによって初めて価値がでる。ごく少数のキラーコンテンツを除けば、配信メディアとは独立にコンテンツそれ自体の価値を考えることはできない。これは現在のTV放送の何%が他の形式(映画やDVDパッケージ)になっても価値があるかを考えてみればよい。視聴率に基づく広告という価値を最大化するようなコンテンツになっているため、他の形式の映像メディアに必ずしもフィットするわけではない。

つまりよく聞く台詞である、インターネット放送が普及しないのは見たいコンテンツがないからだ、という話は、インターネット放送というメディアに適したコンテンツ形式、提供方法がまだ発見されていないといいかえることができる。もちろん、著作権法上、放送は様々な形で便宜を図られており、公衆自動送信に分類される一般のインターネット放送はコンテンツ制作上、不利なことは否めない。また現在のインターネット放送では、クリエータ・プロモータの収益が確保しにくいことも大きな問題である(「著作権管理」、「ビジネスモデル」を参照)。

上記が成熟した上で、インターネット放送の起爆剤となるようなイベントが待ち望まれる。カラーTVにおける東京オリンピック、CNNにおける湾岸戦争のように。もう少し技術的に成熟し、環境が整ったときにこのようなイベントに応じたインターネット放送ならではのキラーコンテンツが現れると急速に普及することになるだろう。

ネットワーク技術

ディスプレイまたはTVフル画面に表示した場合,DVD程度の画質を得るためには End-to-End で 3-5Mbps 程度の実効帯域が必要である。ところで、音楽ではCDよりも明らかに音質の劣るMP3によるリッピングがすっかり市民権を得たように、メディアフォーマットは扱いやすければ悪貨が良貨を駆逐する(低品質なコンテンツが高品質なコンテンツをしのぐ)。DivXなどはいい例である。そのため、現在のADSL環境でもたいてい扱える1Mbpsくらいの映像配信で満足するケースが増えると予想している。モバイル放送を考えても同じくらいになりそうだ。

すると、いわゆるLast-one-Mileは問題とならなくなり、多数の同時接続を処理しなければならないサーバ側のコストが問題になる。帯域コストはどんどん下がってはいるもののさすがに一気に1/1000になるといったことにはならないし、CDNといったマルチキャスト的技術もそれなりのコストがかかる(IPマルチキャストは閉域網以外はないでしょう)。そうだとするとむこう10年くらいはP2P配信が有効なソリューションになるのではないかと考えている。

ところで、現在のP2P網は「怪しい」ものばかりである。もちろん、freenetのような匿名指向のP2Pシステムは重要であり、例えば軍事政権下での実況中継などに使うといった用途では非常に期待が持てる。しかし、P2Pシステムが商用利用できるようになるためにはこういったものとは全く異なった性格が必要である。P2P網が商用になるためには、怪しさがない:つまり許可されないコンテンツが流れない、高信頼性・可用性: 配信中に一部ノードが無くなっても安定して流れる、可制御性:配布の範囲をコントロールしたり、配送を中止したりできる、などの特徴が必要である。本稿執筆時、napsterの商用配信が月末から始まるというので注目している。

著作権管理

様々なDRMシステムが提案されているものの、配信側とユーザの両方を満足させられるものは存在しない。今のところ商業的に成功しているといえるiTunesに関してもほげほげという声を聞く(仕事上の話なので言えない)ので、長期間にわたって継続可能なサービスであるかは今後の動向を見なければならない。一般にセキュリティと利便性にはトレードオフが存在するので、バランスの良いシステムの模索がしばらく続くだろう。

しかし、どんなに暗号化しようが、すかしを入れようが、専用端末化しようが、アナログホールは残るし、クラッキングも無くならないだろう。そのため、違法コピーの流通を止める手段として、RIAAが考えているような法的攻撃(訴訟しまくる)・技術的攻撃(違法コピーしているノードをクラックする)といった積極抑止は考えざるを得ないだろう。

個人的には、著作権の考え方自体が今後変質していくだろうと期待を込めて予想している。現在の知的財産権の枠組みは、創造を促進するよりも既得権を守るために使われてしまうケースが多すぎるためである。しかし、クリエータが全く食べられなくなったらコンテンツは全く流れなくなる。コピーの自由度を上げつつ、クリエータ・プロモータへなんらか還元するようなシステムが必要である。

ビジネスモデル

コンテンツをネット上のどこかに置いておいても、ほとんどのものは誰にも知られず、ストレージコストを払い続けるだけになる。なんらかのプロモーションと連携できなければならない。現在のP2Pであれば映画・DVDなどのタイトルで検索されるし、ストリーミングサイトではWWW上でのプロモーションがなされる。つまり、現在はプロモーションと配信手段が未分化である。

従来の放送ではラテ欄を見たり、何となくチャンネルを回したりすることでコンテンツに遭遇していた。むろんこれでは豊かな混沌を実現しているインターネットに適したプロモーション方法とはいえず、新たな方法が必要である。番組選択のための良いUIを考えるというのはこの分野の要素技術となる。プロモーション方法はインターネット内に閉じる必要はなく、雑誌にURL -> WWWをクリック -> 認証語、データはP2Pで配信なんていう道もありだろう。インターネット内に閉じた方法としては、新聞サイトのように情報フィルタがかけられたポータルサイトによる映像情報提示と、blogや掲示板など混沌したなかで発見されるようなプロモーションが当面考えられる。

コンテンツ提供側からすれば、TVやDVDパッケージなどの既存のコンテンツ配信チャンネルとインターネット配信を選択するときは、どちらがコスト収益性が良いかという比較に還元して考えるはずだ。現在の放送が立脚する少ないチャンネル数に基づく一等地商売であるCMモデルに勝るビジネスモデルは、残念ながら多チャンネル放送に対してはまだ確立できていない。しかし既存のテレビも多メディア化によってその神通力がどんどん弱まっているため、この点はインターネット放送にとって追い風である。

決済手段に関しては、会員制の月額サブスクリプション制はうまくいっているようだ。固定的な視聴者がいて囲い込みに適したコンテンツ(NBAの試合など)には向いている。しかし、より小規模な視聴者を対象とした映像に関してはPPVが向いている。この場合は手軽な少額決済手段が欲しいところだが、要素技術はいろいろあるものの、サービスとして安心して使えるようなものはまだない。

2002年3月版との考え方の差分

2002年3月の時点では、ネットワーク帯域価格の低廉化が特にバックボーンなどでどんどん進み、サーバからのストリーミング配信方式+CDNが主流になると考えていた。テレパソの普及によりパソコンでテレビを見る環境が整ってきて、そのようなスタイルが若年層を中心に普通に受け入れられるようになってきた。個人的には、TVがストリーミングを受けられるような情報家電的アプローチのほうがより望ましいと考えていることに変わりはないが、少なくともパソコン中心であっても普及の障害とはならないだろう。


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